選手インタビュー

小掛照二さん 小掛照二さん 陸上(三段跳び) 1956年メルボルン

“栄光と挫折”とよく言われるが、この一対の言葉は小掛照二の人生を描写するのに最も適した言葉となりうるだろう。世界新記録樹立という栄光を手中に収めながらも、その4年後にはユニフォームとスパイクを燃やし陸上界を去る決意をした。一度すべてを捨てた小掛だからこそ見える、オリンピックの未来がある。

【命運をかけた世界陸上選手権から16年】

高橋:まず、世界陸上選手権(以下、世界陸上)についてお伺いしたいと思います。8月に大阪で世界陸上が開催されますが、小掛さんが注目される選手や、注目される競技を教えてください。

小掛:16年前に第3回の世界陸上を東京で開催したのですが、その時は「日本の陸上界の命運をかけてやろう」、「もし失敗したら総辞職」というくらいの決意でした。私は強化委員長の立場で、団長と監督を兼ねていたのです。日本は第1回、第2回とも良い成績を収めていないし、特に地元開催なので頑張らなければいけないということで、今までは東京やっていた結団式を、北海道のホテルで一般の方にも集まってもらってやったのです。そこで「私は進退をかけて世界陸上を戦う」と言いました。今までと同じことを繰り返していたのでは、みんなが「よし、やろう」という気持ちにならないし、選手やコーチを一つにまとめなければいけないということから、そういう決意表明までして戦ったのです。おかげさまで、2日目に女子マラソンで山下(佐知子)さんが銀メダル、そして有森(裕子)さんが5位、それから、今年4月から強化委員長になった高野(進)君がオリンピックや世界陸上で初めて400mで入賞し、最終日には男子マラソンの谷口(浩美)君が優勝して、篠原(太)君が5位でした。センターポールに日の丸が揚がって「君が代」を聞いたのです。毎日満員で、それはもう大変盛り上がって、大成功に終わったわけです。
  いよいよ今年の8月に大阪で世界陸上があるのですが、東京での大会以来、選手も育ってきておりますので、今年の大阪では一つは「君が代」を聞かせてもらいたい、それはハンマーの室伏(広治)君だと思うのです。彼のメダルは間違いないでしょうから。

高橋:金メダル、ですか。

小掛:ええ。彼が金メダルを取って、あとは女子マラソンあたりでもう一つくらい取ってほしいなと思っています。(陸連の)強化委員会は「五つのメダルを」と発表していましたが、私は10回の世界陸上を戦ってきて、今年の大会はそんなに甘くないように思います。ただ、地元開催ですから、何としてもここでいい成績をあげて、その勢いで来年の北京につなげてほしいと思います。東京の世界陸上の時はその翌年がバルセロナオリンピックで、有森さんが銀メダルを取るなど結構みんな活躍しましたから、そのように大阪で頑張って北京オリンピックにつなげなければ。だから為末(大)君などもいますが、室伏君を中心に一人でも多く入賞してもらいたいし、せめてメダル3個は間違いなく獲得してもらいたいという期待を持っています。

高橋:今、1991年の東京大会のお話が出たのですけれども、その時と比べると参加する国の数や選手、役員の数、放送される国、あるいはテレビの視聴者などの規模としても、16年たって今回は随分違うのではないですか。

小掛:そうですね。世界陸上は200カ国以上が参加しますからね。オリンピックより参加国が多いですから、世界中が注目しています。私は、中国の活躍に一番注目しています。翌年が北京オリンピックですから、中国の活躍はすごいだろうなと期待しています。

高橋:なるほど。今回の世界陸上を大阪で、日本でやることの意味というのは何でしょうか。

小掛:やはり東京の世界陸上を機会にずっと強化してきましたし、これから大阪をスタートにして、もっともっと世界で戦えるアスリートを育てようということが大きな目標ですね。

高橋:東京大会に比べると、選手自体も以前に比べて、メダルという意味で成績を残せるように随分変わってきたのではないですか。

小掛:確かに選手が育ってきたというのは、スターが出てきましたからね。有森さんが出てきて、それから女子マラソンの高橋(尚子)さんとか野口(みずき)さん、室伏君とかね。そしてまた末續(慎吾)君の銅メダル、為末君の2回の銅メダルとか、世界で戦えるような選手が出てきましたから、陸上に対する注目も出てきたし、どんどん人口が増えてはきているのですけどね。中国式の、小さい時から才能のある選手を時間をかけて強化するということが日本はまだ…。ナショナルトレーニングセンターもできたし、文部科学省には総合型のスポーツクラブの考えを出していただいています。才能ある子供たちを早くから見つけるということも考えていただいているようですから、これが早く軌道に乗ればいいと思います。

高橋:スポーツ選手を育てる育成のシステムというか、それ自体が違うのですね。やはり小さい時から強化していかないといけない。

小掛:そうしないと、出てきたのを育てていたのでは遅いのです。小学生のうちからスポーツに向く選手とか芸能に向く人とか、いろいろありますね。中国はそれを徹底してやってきていますから。だから、日本は前回のアテネオリンピックは最高だったと思いますよ。柔道も、水泳も、陸上も、レスリング、体操、その他すべてがうまくいって、立派に戦ったわけでしょう。だけど、来年の北京は大変だと思います。中国がすごく強化していますから。国を挙げてオリンピックを戦うのだ、国を挙げて選手を育てるのだ、これができているわけですよ。もうすでに、ジュニアから手がけてきているのです。

高橋:そういうシステムができていて、中国は今度の北京オリンピックはかなり強くメダルを狙ってくるということですね。

小掛:そうそう。ですから、日本が東京オリンピックを開催して一気に経済面でも、すべての面で発展しましたね。それを中国は考えているわけですよ。

高橋:ああ、なるほど。1964年の東京オリンピックの時と同じような意識が来年の北京オリンピックにはあると。

小掛:そうです。中国にとっては大変大事なオリンピックですから。国を挙げてやっていますから、完全に各種目とも日本の強敵は中国とみていいのではないでしょうか。

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