選手インタビュー

>結城昭二さん 結城昭二,バスケットボール,1976年モントリオール

【オリンピック出場への日本の課題とは】

元川:韓国との厳しい戦いに、素晴しい一体感で勝ってオリンピック本番に行けたということで、モントリオールではオリンピックに実際に出られてどんなことを感じましたか。

結城:実は、正直に言ってオリンピックに出られた瞬間と、オリンピックに行く間までは、過去のどん底から目標を達成したということで非常に満足感があったんですが、その後、モチベーションが下がってしまったですね。オリンピックに出ることに最大のエネルギーを使ってしまったものだから、さあ次はオリンピックだっていった時には…。

元川:燃え尽き症候群のようになってしまったということですか。

結城:そんな感じだったですね。僕、大会のことはほとんど覚えてないんですよ。

元川:一次リーグはどこと対戦したとか、11位という最終的な成績などは…。

結城:本当に、全然覚えていないんですよ。12チーム中11位でしたっけ、メキシコかどこかに勝ったのかな。AとBに分かれてリーグ戦をして、上位4チームくらいがトーナメントかリーグ戦をやったと思うんですが…。試合は、10試合くらいやったんじゃなかったかな。

元川:でもそれが、もしかしたら当時のオリンピックを目指した人の姿かもしれないですね。つまり、バスケットではアジアを勝ち抜くことがすごく重要でしたから。本番で何か結果を残すという感じにならないというか…サッカーもそうだったと思うんです、フランスW杯まではアジアを勝ち抜くことばかりで、本番になったら3敗して帰ってきましたけれど、そういうエネルギーの持って行き方が難しいということはありますよね。

結城:岡田(武史、元サッカー日本代表監督)も言っていましたが、アジアで勝ってW杯に出ることに最大のパワーを発揮して、W杯に出られるという結果が出た時に、さあこれから、さらに…と次を目指すためにはちょっと時間がかかりますよ。彼は監督ですからW杯でベスト4に入るとかベスト8に入るとか話はするけれども、実際の本音は、それはこれから考えるよ…という状況だと思います。

元川:確かにそこまでの、オリンピック出場権を取ることがどれだけ大変かというのは、バスケットの場合は特に大変ですよね。

結城:そうです。もう人生すべてすり減らして、パワー全開にしてやるわけですよね。それで終わって、次のステージに行けるとなった時に、すぐに回路を切り替えられるかといったら、難しいですよね。

元川:ある意味では、アジアを勝ち抜くことが重要で本番で結果を残すことは難しいというのが日本の男子バスケットの状況だったでしょうし、今もそのあとずっとオリンピックに出られていないのですが、その壁を越えられない時代が続いているということですよね。今の男子バスケット界の置かれている状況については、どう思われますか。

結城:30数年オリンピックに出ていないという現状については、選手にターゲットが行くようですけれど、バスケット界の環境そのものに問題があるということだと思います。

元川:どんなことが問題だと思いますか。

結城:まず、バスケットをはじめとするアマチュアスポーツの一つの大きな課題は、普及強化ですよね。普及強化というのは卵が先か鶏が先かわからないけれども、まず強くなるということ。サッカーのようにW杯に出られるとか、強くなることが普及につながるし、普及につながることが強化につながる、三位一体というんでしょうか。だから、どっちが先かというのは別問題で、僕ら技術屋は、やはり普及が先だと思っています。その結果が、要するにアジアで勝つとか、W杯に出るとか、そういう結果になると思うんです。日本のアマチュアスポーツの歴史はほとんどボランティア活動の集団ですが、今の環境というのはもうボランティアの環境ではないんですね。プロフェッショナルが増えてきましたから。我々の年代のころは、日の丸をつけて日本を代表して諸外国と戦うんだという、要するに愛国精神っていうのかな…それに対するプライドとか夢というものがありましたけれど、今の選手はプロフェッショナルだから、ナショナルチームで国際大会をやってもケガしちゃったらそれで終わってしまう。それであれば、終わってもいいような環境づくりをしてあげればいいわけです。例えば保険をきちんとかけてあげるとか、あるいはプロなんですからギャランティーをしてあげるとか。昔からのボランティア体質が、未だに変わっていない。なぜかというと、収入源が少ないんです。その予算を強化普及や事業などにまわしますが、普及も強化も前々年対比の予算がマイナスなんです。そんな状況で日本のバスケット界を強くしろといっても、難しいですよ。

元川:でも、結城さんの時代は、アジアで勝ててオリンピックにも出ることができていました。

結城:我々の時代は、企業がお金を出してくれていたんですよ。プレーヤーの精神も、プロがいないからみんな企業に属するサラリーマンであって、言ってみれば会社を休んで好きなバスケットができるという一つの大きな嬉しさと、日の丸をつけて国のために、国際大会に行けるという、それが我々のステイタスだったんですね。ただ、今はそれが成り立たなくなった。財源がなくなってしまったから、稼がなければいけないんです。各団体はそういう活動をしているし、そういう意識はあると思うんですが、日本のバスケット界は稼ぐという意識がないですね。予算が選手のほうに行っていないと感じます。バスケットボールシンクネットといって、15年くらい前から日本のバスケット界はこうあるべきだという一つの絵を描いています。

元川:結城さんから考える理想の今後の姿というのは、簡単に言うとどんなものですか。

結城:僕はやはり、年寄りは去れという傾向になっていますが、スポーツ界というのは経験というのがものすごく大きな影響力があるということと、技術屋さんというのは決してマイナスではなくプラス部分が多いと思うので、そういう人たちをもっともっと活用すべきだと思います。それから、全国に技術論とか指導法を広めて指導者を育成することが、普及にもつながるし強化にもつながります。今、文部科学省でも問題になっていると思うのですが、小学校ではミニバスケットがあって、バスケット経験者が教えたり地元のお父さんお母さんが教えたりしてある程度は盛んなのですが、中学校に行くとバスケットの指導者がラグビーの指導者だとか野球の指導者が兼務しているという状況で、高校はだいたい専門の監督がやりますが、大学に行くとまたレベルが下がるという…子どもから大人になるところで、技術的な部分ばかりでフィジカルがおろそかになるという指導面の問題があると思います。だから、ここぞという時には走れない、飛べない、頑張れないという傾向になる。僕らがJBLの理事をやっていた時、日本のバスケット界はどうあるべきかということを考えて、強化を前提とした全国クリニック事業を始めたんです。年間50から60くらいの地方をまわりまして、指導者を集結させて、講義と子どもに対する技術指導の方法を指導者たちに教える。指導ノウハウを教えるということです。あとはスポーツ選手としてのマナーなど、技術だけではなく全体的に教えるんです。

元川:そうして指導者のレベルをアップするという…こういう指導者研修というのは一番大事なことですね。

結城:そうです。子どもたちにいくら教えるよりも、指導者に教えることが大切。僕らは年に1度、来れるかどうかもわからないけれど、あなた方はほとんど毎日子どもたちと接するんですから。どんな競技でも、これが原点だと思いますね。今はもうこの事業はなくなってしまいましたが、日本協会の役目は普及強化だと思いますから、その仕組みや体制づくりをしなければいけないと思いますし、これは全競技の協会に言えることです。

元川:やはり、アジアを突破するという経験をしてもらいたいわけですよね。結城さんとしては後輩たちに、しびれるような経験をしてもらいたい。そして、結城さんご自身はあまり覚えていないとおっしゃっていましたが、オリンピックに出るという経験をしてもらいたいと思いますよね。

結城:これは、味わいたくても味わえない、言葉では表せない…なんて言ったらいいんだろう、一世一代の大舞台ですよね。オリンピックのメインスタジアムの開会式での行進、あれは涙が出ますよね。特に、僕がオリンピックの舞台に立つまでの経緯からしても、大感動でした。

元川:誰にも文句を言わせないプレーヤーになって代表に選ばれることと、そのくらい、予選を突破することに大きな価値があったので、実際にオリンピックに参加して、行進するだけで感無量ということだったんですね。

結城:今、日本でもプロのプレーヤーがたくさんいますよね。一度、まだ味わったことのない、僕が感動したそのステージを味わってみたら、最高だろうなと思いますけどね。僕が言いたいのは、選手は頑張るしかないのであって、頑張るエキスを与えるのは環境と指導者だということです。僕は指導者と環境に恵まれて、それが、自分がバスケットをずっとやってくることができた最大の理由だろうなと思います。

~結城昭二さん インタビュー 完~
(インタビュアー:スポーツライター 元川悦子)
>>インタビュー写真集
結城昭二さん
結城 昭二(ゆうき しょうじ)
1950年8月27日東京都生まれ。中央大学在学中に初めて全日本に選出され、住友金属入社後にオリンピック出場。住友金属では日本リーグで3回の優勝に貢献した。
引退後はバスケットボール日本リーグ機構理事、NBA解説者等、バスケットボールの普及に努める。
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