選手インタビュー

竹下百合子さん 竹下百合子さん カヌー・スラローム 2008年北京

【遠いはずだったオリンピックが現実に】

元川:早稲田に行って、そのころになるともうオリンピックが目前ですよね。

竹下:そうですね。1年の時にもう予選の大会に出て、そこで通ったので。その時はブラジルで世界選手権があったんです。

元川:でも、ジュニアからトップの大会に出ること自体もこの年が初めてだったわけですよね。

竹下:シニアの代表は高2の時に初めて入って、ジュニアと両方に入っていたので経験していました。

元川:では高2、高3は掛け持ちだったんですね。シニアの方でどのぐらいのレベルでしたか。

竹下:その時は世界選手権だと23位とか24位くらいだったかな。

元川:では、まだまだオリンピックに出るにはちょっと…

竹下:オリンピックには遠い…ブラジルで世界選手権は国別で15位以内だったのですが、15位ぎりぎりに入れて本当にラッキーというか。一つ下の順位の選手とは100分の何秒差だったので。

元川:本当にぎりぎりで切符を取れて。それは当然、日本の中でも1番だったということですよね。

竹下:はい、1番でした。高2の時に初めて日本選手権で優勝したので、そのころは日本選手権で上位にはいました。ずっと勝っていたわけではないのですが。

元川:それでそのままオリンピック出場権を得て、その時はどんな気持ちでしたか。

竹下:その試合自体はあまりオリンピックは意識しないで、自分の漕ぎをしようとやったので、終わった後にあまり実感できなかったですね。本当にオリンピックに私は出るのかな、というか。日本に帰ってきてからいろいろとメールとか電話とか、取材が増えたりして、そこから実感していきましたね。あとはその年の10月に北京オリンピックのコースで公式練習があって、そこに行って、いよいよだなと思ったんです。今まで漕いできたコースで一番大変でした。とにかく流れも強いし、波も大きいし、コース自体のパワーがすごかったです。初めて行った時は引っ繰り返ったりして、真っすぐ下るのも大変でした。ほかの国の強い選手もみんな苦戦していて、結構はじかれてゲートに入れなかったりして。男子でも大変そうでした。

元川:それが10月に分かって、翌年の8月にオリンピックがある。それまで何を鍛えなくてはいけないと思いましたか。

竹下:そういう強い流れにも負けないような体づくりですね。本当にそういう難しいところでこそ基礎がすごく重要になるので、基礎をやり直しました。パドルを、しっかり水をキャッチできるような漕ぎ方をしたり。トレーナーの方と、バランス強化のために体幹とかを中心に鍛えていました。

元川:オリンピックの年にはどんな過ごし方をしていったのですか。

竹下:冬は今言ったようなことをやって、4月の頭に1回海外に行きました。スロベニアに行って1カ月ぐらい練習して、一度帰ってきてまたすぐに、北京のコースに行ったりヨーロッパに行ったりする生活でした。北京のコースでは決められた時間しか練習させてもらえなかったので、なるべくそういう大きな流れで練習できるようにと思って。あとはヨーロッパで試合もあったので、それに出て試合慣れという意味も含めて。

元川:そういう中で試合の結果は徐々に上がっていったのですか。

竹下:あまり良くなかったです。

元川:直前は何位ぐらいでしたか。

竹下:何位だったかな…その年まではそういう大きな試合で決勝に残ったことがなかったんです。

元川:本当ですか。この直前の大会などでも?

竹下:はい。海外の公式の試合で決勝に残ったのはそのジュニアの時の1回。あとは12位とか、それぐらいまではあったのですが、決勝に行ったことはなかったのです。

元川:そういう意味では、自分の中でメダルという気持ちはまったくなかったんですか。

竹下:はい。順位はあまり考えていなかったです。とにかくそのころは、自分の漕ぎをしようというか…本当にそのコースが難しかったので、コーチからも失敗しなければ女子はいいところに行くと言われていたぐらいでした。

元川:では、とにかく失敗しないようにすると。

竹下:そうです。丁寧に丁寧にやる、という練習をしました。今、振り返っても特別速かったわけではないのですが、特別なこともしたわけではなくて、本当に自分の普段の漕ぎができたから4位になりました。ほかの女子選手は結構みんな失敗したので、そこで失敗しないで普通に漕げたのがそれにつながった。

元川:だって、4位というのはすごいではないですか。

竹下:だから、私も驚きました。みんなも驚いていましたけれど(笑)。

元川:それだけ周りの選手がこのコースにてこずったということですね。上位陣というか、普段の大会で上位に入っている人たちでも。

竹下:そうです。予選から波乱で、世界選手権で勝ったチャンピオンや地元の中国選手でも準決勝で落ちたりしていましたので。今は2本1採なのですが、そのころは2本合計だったので、どっちか失敗してしまうとダメなんです。

元川:今は2本やっていい方を採るということですね。

竹下:そのころは、1本目で不通過してしまうとその時点でダメだったので。

元川:そういう中でどんな気持ちで…そういうことが起きると精神的にも動揺があるのかなと思うのですが。

竹下:予選の時は実際にはすごく緊張して、あまりいい漕ぎができなくて終わったのですが、準決勝は自分でも驚くぐらい冷静だったというか、すごく余裕が心にあって、いい緊張感を持ってスタートできました。

元川:予選は何位だったのですか。

竹下:予選は15位でした。またぎりぎり。準決は6位でした。

元川:本当ですか。余裕を感じていたんですか。

竹下:何か焦りはなかったですね。

元川:何でですかね。周りがそんなふうに落ちていく中で、どちらかというと大舞台に強い性格なのですか。やるべきことをやってきたからという、そういう感じでしょうか。

竹下:多分そういうのもありましたね。あとは準決勝、決勝のコースが自分に向いていたかなというのもあったので、自信が少しあったのかな。試合の時にしかそのゲートセットでは漕げないのですが、練習の時にいろいろな、こういうセットが試合で来るのではないかなというのを想定して練習するのでそれが当たったり、外れたりとかもあるのです。

元川:自分の得意か不得意かというのもあるということですね。

竹下:あります。どれぐらい振ってあるとか、どの位置にゲートがあるかとか。

元川:それが自分の中で結構やりやすい感じのコースだった。それも運ですね。

竹下:本当に運が良かったというか。

元川:予選、準決勝、決勝、全部違うようにセットされるわけですか。

竹下:準決勝、決勝は同じですが、予選と準決勝は違うコースです。そのセットのせいではないのですが、予選通過できたことで勢いがついたというか、「あとはやるだけだ」みたいな勢いがありました。

元川:それで決勝の漕ぎというのはどんなものでしたか。

竹下:決勝も結局は途中まで良かったのですが、最後の最後で失敗してペナルティーを2つもらって、ゲートにも落とされたり、結構なロスがあったんです。

元川:それでも4位というのは、3位の選手とどのぐらい差があったのですか。もしペナルティーが2個なかったら抜いていたのですか。

竹下:ペナルティーがなくてもちょっとダメでした。あと、ゲートが最後で結構落とされたので、それも大きかったです。でも終わった後は4位というのがびっくりしすぎて、正直信じられないという方が大きかったのですが、後で日本に帰ってきて時間がたっていくうちに、メダルと4位の差があまりにも大きかったので、テレビなどを見ているとメダルを取った選手の取り上げ方とか、それで悔しさが徐々に、じわじわと来ました(笑)。

元川:それではますます、「次こそは…」みたいな気持ちになりますか。

竹下:それと、次を狙うにはそれ以上のものが期待されるので、そういった意味ではすごく責任というか…。

元川:オリンピックの独特な雰囲気はどうでしたか。

竹下:ありました。自分自身は初めてだったのもあるし、オリンピックをあまり意識しないでレースができたのですが、トップ選手が失敗するのを見て、やっぱりオリンピックは違うのだなという感じでした。

元川:普通のものではないなと。個人競技なので、例えば上村愛子選手みたいに、本当にオリンピックでメダルが欲しくて頑張っていると思うのですが、今はそういう気持ちは分かりますか。すごくそれを追求してしまうというか。

竹下:分かりますね。1回結果が残るとそれにこだわるというか、それ以上を狙っていかないといけない、というような。

元川:竹下さんにとって北京オリンピックというのは、より上を目指すためのステップというか、本当に一番大きな大会で一番いい順位が出たというのはびっくりですね。でも、その翌年シーズンからはそういう目で見られるようになりましたよね。

竹下:そうです。そう見られるので、結果を出さないといけないという思いは強かったのですが、でもなかなか出すことができなくて悔しいので、また次のオリンピックで返せたらと思っています。

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