選手インタビュー

上野由岐子さん 上野由岐子さん ソフトボール 2004年アテネ

【ソフトボーラーの最後のオリンピック】

高橋:北京オリンピックが今年で、次のロンドンから、ソフトボールが公式種目から外れてしまうということですよね。その後どうなるかまだ分からないとしても、北京オリンピックが金メダルを取る最後のチャンスとよく言われますけど、その辺のプレッシャーはありますか。

上野:プレッシャーは、なくはないですけど、別にそれは自分たちだけじゃないので。

高橋:ほかの国のチームも同じ?

上野:そうですね。日本だけが最後のオリンピックなわけじゃなく、どの国のソフトボーラーもみんな最後のオリンピックになるわけだし、そういった意味ではどの国も金メダルを狙いに来ると思うので、自分たちだけが受けているプレッシャーじゃないと思います。逆にほかの国も、自分たち以上に必死の形相で戦いに来ると思うので、自分たちも今まで以上に準備していかなきゃいけない。プレッシャーがどうというより、本当に必死にやってくる相手に勝つために、自分たちはどのくらい必死になって準備して戦っていくかというのを考えていかなければいけないと思う。もちろん金メダルというのをみんなが期待してくれていて、それに応えたいという気持ちもあるんですけど、本当に自分たちが、どれだけそこに執着心を持って、諦めないでやれるかというのが、最終的には強さにつながると思う。そういった意味で、本当に自分たちがやらなきゃいけないと思うし、そのための諦めない心とかも、いろいろ支援してくださっている方々の力にすごくつながっている。自分のためにソフトボールをやっているわけじゃないですけど、やっぱり自分がしっかりしてないとやれないというのもあると思います。

高橋:意識している国は、やっぱりアメリカですか。

上野:そうですね。

高橋:アメリカって、「楽しんで」ということをよく言うじゃないですか。それはふざけてという意味ではなくて、自分が楽しまないといけないという。もちろん厳しさもあり、責任もあるという、そういう感覚も少しあるのかなと。

上野:そうですね、やっぱりそれが一番大事だと思います。

高橋:そうですよね。特に上野さんは笑顔を欠かさずという雰囲気づくりもその中でやっているということで、先ほどおっしゃっていましたけど、チームの信頼関係だったり雰囲気だったり、勝つという気持ちはもちろん大事ですよね。

上野:そうですね。自分だけでやっているものじゃなくて、自分が打たれても打線が助けてくれるときもあるし、本当にチームプレーなんだなというのをソフトボーラーはすごく感じるので。だからこそ、みんなのために自分は投げなきゃいけないと思うし、自分が打たれても、みんなが上野のためにと思って打ってくれるわけで、それがある意味信頼関係だと思う。自分がマウンド立ったときに、今日は上野だからしっかり守ってやろうと思わせるには、日ごろどういうふうに仲間と接しなきゃいけないかとか、どれだけ周りに気配りできるかということにもつながってくると思うので。そういった意味では、ただやらされているわけじゃなくて、やっぱり自分がそうなりたいからやっているわけだし、そうやることが楽しいからやっている。自分の中では当たり前のことなんですけど、それを見て、「ソフトボールはいいね」と言ってくださる方もいらっしゃいますし、それが本当に自分たちの良さじゃないかなというのは感じます。

高橋:今お話ししてくださったようなことが、ソフトボールの魅力なのでしょうね。お話を伺っているだけでも「ああ、いいな」と感じますよね。寮生活をされているのですか。

上野:そうですね。

高橋:そうすると、先ほどおっしゃった日ごろのチームメートとの接し方というのも、寮生活の中で培われていくということもあるのですか。

上野:そうですね。チームに帰れば、全日本とは別で、今所属しているチームのメンバーがいる。うちの場合は特にソフトボール部専用の寮なので、本当に365日みんなと一緒にいるという感覚なんですけど、その中で先輩とか後輩という人間がいても、試合になればみんなが、先輩後輩関係なく力を合わせてやっていかなきゃいけないわけだし、後輩が先輩に言わなきゃいけないことがあったりもするわけなので。そういう、「言える環境」を寮生活の中でつくっていかなきゃいけないと思います。

高橋:上野だから頑張ろうとか、上野のために守ってあげようと思ってもらうためにというお話しがありましたが、やはりピッチャーは特別な存在だと思いますか。

上野:正直、自分もバックのみんなが守ってくれないと投げられないし勝てないので、もちろんバックを信頼したり、点を取ってくれる打線を信頼しているんですけど、やっぱりピッチャーって自分の投げるボールにすべてがかかっているので、絶対頼っちゃ駄目だと思うんですよ。頼っちゃうと自分の力が半減してしまうし、半減してしまえばバッターに打たれてしまうわけで、そういった意味では本当に、野手以上に気持ちも…心が一番強くなきゃやっていけないポジションだと思う。でも、孤独なんだけど、バックでみんなが自分のことを見ている、後ろで守ってくれているみんながいるっていう心強さを感じられるチームで投げると、自然と力も出てくるし、ファインプレーも生まれてくるし、それが心を一つにして戦うってことだと思う。そういうのって、本当に心の底からその人をどう思っているかだと思うんですよ。個人競技にはない強さ、難しさがあるというところなんですけど。個人競技って、自分がよければすべて良しじゃないですか。例えば陸上は、自分さえ早く走れればいいという問題だと思うんですけど、自分たちはそうじゃなくて、打たれても守ってくれるバックがいて、ランナーがエラーで出たら抑えてくれるピッチャーがいて、それが信頼関係だし、どれだけ本当にこのピッチャーのために、上野のために、絶対守ってやるからと思って守ってくれるか、逆に、野手だってエラーしたくてエラーしているわけじゃないけど、そのエラーで出たランナーで点が入ると野手は自分のせいだと思ってしまうから、そうならないように、自分がどれだけその子のことを思って投げられるか…それって、グラウンドだけじゃなくて、日常生活での会話だったりとか、日ごろの信頼関係だったりとか、そういうのにもよるじゃないですか。

高橋:そこから全部つながっていくわけですね。

上野:そうですね。本当に日常=(イコール)グラウンドと自分たちでよく言うんですけど、日ごろできないことはグラウンドに出てもできない。だから、グラウンドで一流になりたいんだったら、日常生活も一流にならないと。ソフトボールはグラウンドだけがすべてじゃないので。

高橋:でも、やはりピッチャーって特殊なポジションだなと思うことはありますか。

上野:そうですね。やっぱり野手とは違った練習メニューをやったりとか、ピッチャーだからという、特別扱いじゃないですけど大事にされたりということはあると思うんですけど。でも、それだけ試合のときにみんなが期待するわけだし、野手以上に結果というものを求められるポジションだと思うので、そこは野手もそう思ってやっているし、ピッチャーもそういうものだと思ってやっているので、特別だけどお互いの理解の中でやっているような感じです。

高橋:上野さんは、例えば性格的に、自分はピッチャーになるべくしてなったと思いますか。

上野:いや、自分はピッチャーがやりたくてピッチャーをやっていただけなので。小学校のときに、すごい憧れを持って、自分はピッチャーがしたいと思って。でも、その中でいろいろな失敗をしたり、いろいろな経験をしていく中で今の考えがあるのだと思う。たくさんの人にいろいろな指導をしてもらって、いろいろな経験をして。前からこういうふうに思っていたわけじゃないので。

高橋:年数を重ねて、こういう魅力が分かってきたという感じですか。

上野:そうですね。本当に自分だけでやってるんじゃないんだなっていう。ピッチャーって、三振取ればいいみたいな、結構わが道を行くという感じですけど、でも自分だけが気持ちよくても駄目みたいな。それじゃやっぱり…試合ってみんなが楽しくないと一つになれないし、勝ちにいけないんだなというのを、正直、試合をしている中で感じたときもあります。

高橋:日常でできないことはグラウンドでできないというのは、すごく日本的なイメージがあるのですけど、アメリカでもそうですか。

上野:そこまではちょっと分からないですけど。でも、日本人はどっちかというと、ソフトボールあっての生活をするじゃないですか。日本のスポーツマンってそういう感じ。生活の中にソフトボールがあるという感じじゃなく、ソフトボールがメインで、ソフトボールのためにご飯食べたり、お風呂に入ったり、トレーニングしたりっていう感じですけど、アメリカ人は、自分の生活の中にソフトボールが入ってきているような感覚なんじゃないかなと。

高橋:そんな感覚がしますよね。自分の生活は自分の生活、プライベートはプライベート、ソフトボールはソフトボールと、きちっと分けている感じで、試合の場でいい活躍ができれば何をしていてもいいだろうというイメージがあるのですけど。

上野:そうですね、そういう感じはありますね。

高橋:オリンピックに出られた後って、マスコミがかなり注目していると思うのですけど、何か生活で変化があったことはありますか。

上野:街を歩いて、時々声をかけられることぐらいです。悪いことはできないなと思います(笑)。

高橋:すごく追いかけられたりとか、そういうことはないのですか。

上野:あまりないですね。どちらかというと、たくさんファンの方からお手紙をもらったりとか。

高橋:そういうものは読まれますか。

上野:読みます。中高生とか、大人の方とか、すごく幅広い年齢層でいただきます。中高生とかだったら、どうやったら速いボールを投げられるんですかとか、どうやってうまくなるんですかみたいな感じなんですけど、答えられるところは答えていきたいなと思っているし。

高橋:お返事、書かれるんですか。

上野:1回は書きますね。正直、自分は一対何十、何百となってしまうので、毎回返事を返すというわけにはいかないですけど。でも、憧れの選手として自分は見てもらえて、その何らかのお礼じゃないですけど、小さいソフトボーラーにもっと頑張ってほしい、夢を持ってやってほしいという気持ちはあるので、必ず1回は返事を書くようにしています。

高橋:この間も「ジャンクSPORTS」に出てらっしゃいましたけど、何かその後、変わったことなどはありますか。

上野:みんなからメールが来ました。

高橋:それで、ファンレターが増えるとか、メールが増えるということはありましたか。

上野:そうですね。上野という名前が、ブラウン管を通してかなり知名度が上がってしまったぐらいですかね。

高橋:そうですよね。それはうれしいことですか。それとも困る?

上野:うれしいですけど、素直に喜べない自分もいる。でも正直、自分を注目してもらうことによってソフトボールという競技も知ってもらうことにもつながるし、もしかしたらテレビに出たいからソフトボールをやりたいと思う子もいるかもしれないじゃないですか。そういった形でも何でもいいから、とにかくたくさんの人にソフトボールの面白さだったり、ソフトボールというものを伝えていきたいと思うし、興味を持ってもらいたいし、試合とかも見に来てもらいたいなということもあるので、宣伝という言い方はおかしいですけど、いい意味でみんなに知ってもらっているんじゃないかなとは思います。

高橋:そうですよね。やはりそういうファンが増えていくということはいいですよね。すそ野が広がっていくということでね。

上野:はい。

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