選手インタビュー

福井英郎さん 福井英郎さん トライアスロン 2000年シドニー

【経験が大きな意味を持つトライアスロン】

安藤:前回の北京オリンピックの際に女子で日本人初の入賞選手が出たり、その前年の2007年のワールドカップにおいて男子で初めて優勝選手が出たりしていますが、小さいころからトライアスロンに取り組んできている選手たちの存在により、日本全体のレベルが上がってきているのでしょうか。

福井:やはり海外との差を埋めるべく、協会やナショナルチームでいろいろ努力をしてきて、レベルの高い選手が出てきています。でも、まだぎりぎりその狭間ぐらいで、小さいときから取り組んできている選手たちと、18~19歳ぐらいから始めた選手たちがちょうど入れ替わるようなところなのです。今、世界で活躍している選手というのは、小さいころは水泳、中学・高校ぐらいに陸上をやっていて、そこからトライアスロンに来ている子たちなので、2種目を経験している子たちです。
僕ら最初の世代は1種目の経験しかなかった。だから、いろいろ変わってきています。小さいころにプールに入って水の中での経験をして、また陸上で走る経験をしてきて、そこのどこかでトライアスロンに出会った子たちが、ちょうど北京やアテネオリンピックの代表選手たちです。次のロンドンオリンピックぐらいで、ちょうどトライアスロンで育ってきた子たちが20歳ぐらいになってきます。
ただ、トライアスロンでは経験がある程度大きな割合を占めます。1レースに2時間弱かかるので、最後まで体力を残しておくには自分を知って相手を知らなければいけない。駆け引きの中で、若い選手たちは展開でつぶされてしまうことがあります。

安藤:トライアスロンに小さいころから慣れ親しんできている選手たちは、成長段階にあるということですね。

福井:やはり彼らの成長を願いますね。若くて勢いでいける選手が出てきて突き上げがないと、なかなかその競技も盛り上がってこないのではないかと思っています。そういう選手がいないということではないですが、やはり最後の最後まで勝負に絡んでこられないことが多い。そこがトライアスロンの難しさというか、3種目ある難しさです。

安藤:やはり3種目あると、それぞれ得意なものと苦手なものがありレースの組み立ても違ってくるのでしょうか。

福井:もちろん違います。3種目あって、その選手の得意種目、苦手な種目もあります。オリンピックで行われる51.5kmという競技は、駆け引きがものすごくあって、そういう中でレースしていかなければいけないので、本当に個々の能力で行き切ってしまうぐらい強い選手が出てくればそれはものすごいことなのですが、個々の能力だけで勝負が決まらないのです。今までは何かの種目での二流選手が集まった競技と思われがちでしたが、やはりオリンピック競技になってからは、どれを取っても一流選手に追い付いてくるぐらいの力をみんな付け始めているので、やはり何か一つ飛び抜けていてもほかの2種目でこてんぱんにやられてしまいます。そういう意味では、やはり3種目を一流に近づけていく時間というのがものすごくかかるのです。そこはどれだけ経験したかによると思います。

安藤:練習は、基本的には3種目バランスよく鍛えていくのでしょうか。

福井:そうですね。あとは得意、不得意の量です。どこに比重を置くかというところが大切な部分になってきます。
トライアスロンを始めていく中で、やはり走ることによって水泳の力が少し落ちてきたり、泳ぎだけに集中するとランがなかなか走れなくなってきたりという、バランスにばらつきが出てくるのです。
得意な水泳を生かして、力を付けてきた自転車で力を発揮して、あとはどこまで走れるかという自分のレーススタイルを持って常にレースに臨んできたのですが、レースにおいてランでかわされればランニングの力が足りなかったかと思ってもちろん強化したりします。そうすると、バランスが崩れてくるのです。水泳で出遅れてしまったり、自転車で力が発揮できなかったり。例えば、ランニングのためにと自転車で足をためていい形で展開を迎えても、思ったようなランニングができなかったりします。あまり考えすぎて不得意なところに力を注ぎ込みすぎても、自分の得意なところが抑えられてしまうと、消極的になってしまうのです。僕はぐわーっと行って押し切ってしまわないと、頑張れないことが多いです。

安藤:競技を始めてから15年、得意なレーススタイルが確立されてきているということですか。

福井:そうですね。ただ、僕がトライアスロンを始めたときは水泳をトップで上がれたのですが、もう今の20歳ぐらいの子や、25歳ぐらいの水泳出身の子たちは、僕らの世代よりももっとレベルが上なのです。だから、なかなか付いていけないし、出遅れてしまう。そうしたら、今度はどうやってレースを展開していくかというと、自転車とランでどういう形で展開していって最後に勝つレースをするかということを考えなければいけない。またそこが面白いのです。水泳で多少遅れたって、あとは挽回すればいいわけです。今までは水泳で逃げて、自転車でとことん逃げて、どこまで逃げ切って最後に優勝できるかというスタイルだったのですが、今はそうではなくなった。
僕は今33歳ですが、そこでほかの競技だと「もう若い選手の方が強いのだな」という考えになってしまうと思うのですが、トライアスロンは面白いことにまた違う角度から切り込んでいき、また、それで勝てたりするのです。
自転車競技は、一人の力でやるのではなくて、ドラフティングといって、何人かで協力し合いながら集団で展開していくわけです。自転車パートが40kmで、1時間ぐらいしかないのですが、その中では水泳で1分ぐらい差があっても一気に差が縮む。同じ集団になってしまったり、逆に差が開いてしまったりもする。そういうふうに、展開がすごく入れ替わったりするのです。
そういう意味ではまだまだ自分の気持ちさえあれば、向上心があれば、続けていけると思います。オリンピックで金メダルを取っているのは、35歳ぐらいの選手もいるのです。

安藤:ほかの競技ですと、一線から落ちてきているかなという年齢ですが。

福井:だいたい周りもそういう目で見てくるんです。「もうそろそろ引退かな」という雰囲気があったりする。トライアスロンにももちろん引退はありますが、違う角度から見れば僕はまだまだいけると思っています。
また、「最初にオリンピックに出た選手」と必ず言われますから、それをモチベーションにして若い子たちに伝えていきたいなと思います。今はそこが原点です。オリンピックに出たというのが何よりも自分の自信だったり誇りだったり、いつもそこを起点に考えるようになっていますから、僕にとってはオリンピックというのは結果とかではなくて、最初にこの競技で出られたというのがパワーの源です。
もう自分がオリンピックというのはあまり目指してはいないですが、今の若い子たちにはメダルを取ってもらいたかったりするわけです。でも、「今の僕に勝てなかったらおまえらはオリンピックに行けないぞ」と言って、自分が境界線でいたいなという気持ちもあります。だから、そういうものを伝えていけたらなと思います。

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