選手インタビュー

井上康生さん 井上康生さん 柔道 2000年 シドニー大会,2004年 アテネ大会

見事な内股による一本。美しい豪快な井上康生の柔道の残像は鮮明です。また昨年のリオデジャネイロオリンピックでの柔道男子の金メダル二個を含む全階級メダル獲得という快挙は、各選手の闘魂と集中力はもちろんのことですが、総指揮官井上康生監督のリーダーシップと人徳あってのことに疑いの余地はありません。東京大会を三年後に控えた今夏、北区にあるナショナルトレーニングセンター(通称、味トレ)の柔道場に井上監督を訪ねました。既に歴史に名を刻むゴールドメダリストであり柔道家の井上さんが不惑を前に、日本柔道の過去と現在さらに未来への展望を静かにされど熱く語ります。

道を求めて進む

鍛え上げられた技で相手を仕留める、ここに柔道の魅力はあると思います。私自身現役時には一本を取りに行く柔道を追求しておりました。そして全日本の監督を務めさせていただいております今は、人生の先行体験を得ることができるというのもその魅力と感じています。五歳から始めた柔道ですが、現役の二十五年間に培われたものがその後の人生に折に触れ活用できていることをつくづく実感しています。これはやわらの道の「道」を究めることと言っていいのかもしれません。同時に私自身まだまだ未熟ですので、さらに学んでいかなくてはいけないと思っています。

柔道とJudo

井上康生さん

柔道は元来国技です。武道精神は大事にしていかなくてはいけません。そこが他のスポーツと異なるところでもあります。しかし約半世紀前の東京オリンピックで正式種目に採用され、そして現在二百に近い国や地域が国際柔道連盟に加入し、国際スポーツになっている状況を考えますと、世界の柔道として新しい基準をつくっていかなくてはならないのだろうと考えています。

私の現役の頃までは立技(たちわざ)を重視していて、寝技になりそうな時も早めに「待て」をかけて、立業に仕向けるところがありました。しかし今は、寝技も大事にしていく方向ですし、寝技の攻防も長く見るように変わってきています。我々自身、寝技の一本も、関節技の一本も大事にし、総合的に戦うことを指導しています。これは伝統的日本柔道にも、世界で戦う柔道にも合致していると思います。いずれにせよ、高い技術力が必要です。立ってよし、寝てよしの高い技術力を持つ選手を育てなくてはと私は考えています。現場監督としましては、やはり世界的な柔道にどう対応していくかが肝心です。

ひたすら技を磨く

小学校五年生の時に講道館で山下泰裕先生に初めて稽古をつけてもらったことがあります。憧れの山下先生でしたし、その後の私の柔道人生に大きな影響を与えました。一発足払いをバチっと食らい、私も踏ん張って投げられなかったのですが、後で痣ができていて(笑)、そうかこういうものかと、妙にうれしくなったことを覚えています。その後の大きなエネルギーになりました。ですので今の選手たちにも、より多くの子供たちにエネルギーを与え、同時に選手たちにも日本代表としての自覚や責任を持てるようなそんな機会を設けています。

その後も中学生の時はバルセロナオリンピックでの古賀稔彦さんや吉田秀彦さんの金メダルに感激し、高三の時にはアトランタでの野村忠宏さんや中村兼三先生の優勝に大きな力をいただいたことを鮮明に覚えています。

私が現役の時に、初めて組んで、今の自分では勝てないなと感じたのは篠原信一さんです。瞬時にかなわないとわかりました。大学二年時の、全日本選手権の決勝戦でした。大概の選手はどうにかなるだろうと思えたのですが、その時だけはそう感じ、実際一本負けしました。二年後2000(平成12)年の日本選手権でも決勝戦で敗れ、篠原さんに勝ちたいという思いは執念のようなものになりました。そしてその翌年の日本選手権決勝で雪辱できたのです。

自分自身の最大の武器は内股だと思っていました。その技を高めるためにはあらゆる努力と研究をしました。これで世界と勝負するんだと言い聞かせました。歴代のチャンピオンを振り返りましても、必ず必殺技と呼べる技を持っているように思います。詰まるところ技術なんです。同じ階級であれ、同じ体重であっても、世界の強豪選手は骨格か体格的な何か、一回り大きく感じさせるものがあります。その外国選手と対等に戦っていくためには、技術力が絶対に必要です。まずは技術力、次に体力、あるいは精神力だと私は思っています。

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