選手インタビュー

千葉建郎さん 千葉建郎さん ボート1960年ローマ大会 Once olympian, Always Olympian

インタビュアー:田中清行 カメラ:田村友考

田中英光の「オリンポスの果実」は1932年のロサンゼルス・オリンピックに出場する日本代表ボート選手の私小説として有名であり、歴史探偵として活躍中の半藤一利さんの隅田川でのボート三昧の青春もつとに名高い。ボート競技はヨーロッパではそれこそサッカーやラグビーに勝るとも劣らぬ歴史と人気を有する紳士のスポーツだ。その華のエイトに青春を賭け、55年前の1960年ローマ・オリンピックへの出場を果たし、オリンピアンの誇りを胸に抱き続ける男がいる。東日本大震災での被災にもめげず、謙虚に、熱く、まっすぐに生きるボートマン千葉建郎さんを、気仙沼に訪ねた。

サミュエル・ウルマンの『Youth』という詩が年を経るにつれて益々好きになり、時に口にしています。「Youth is not a time of life, it is a state of mind(青春とは人生のある期間をいうのではなく、心の在り様をいうのだ)。「人は信念と共に若く、疑惑と共に老い、自信と共に若く、恐怖と共に老い、希望のある限り若く、失望と共に老いる」。現在77歳ですが、大事な詩であり、私のモットーです。ボートに出会い、格闘し、事業で格闘し、大病を患い、津波にも遭い、それでも希望を持っています。命擦り切れる思いを幾度かしながらもよく生き残っていると思います。逆境でも夢と希望を持ち続けたからかな。そして懲りずに今でもね(笑)。

1956(昭和31)年に東北大学に入学し、大学一年の冬に誘われてボート部に入りました。同郷の気仙沼出身の畠山孝さんという人が1936年のベルリン・オリンピックのボート競技に出場していることも入部の一因でした。合宿所のある塩釜では朝の5時から船を漕いで7時に終えて、一時間半かけて仙台の校舎へ行くという生活でした。厳しい練習で、いつやめようかと思っているうちに新入生が入って来て、みんなに、やめずに頑張れよ、と言っていたら、私自身が深みに嵌(はま)っていたのです(笑)。当時の監督堀内浩太郎さんは、旧制二高から東大、航空機、造船業界で活躍された方ですが、すばらしい人でした。この方の指導力、指導法には今でも敬服しています。上級生になって主将を任され、集中力と効率、最新鋭の装置での科学的実証、女子高体操部での敏捷性促進等々旧来の体力勝負に少し知性と冒険を加え、先輩からはお小言ももらいましたが、堀内さんの寛大なフォローで事なきを得、タイムもぐんと伸ばすことができました。当時のボート競技には漕ぐだけではなく、船をつくることも含まれました。造船力学、航空力学等の知識が当然必要で、この辺がボートの面白さでもありました。1959(昭和34)年に来日したオックスフォード大学に決勝で小差で負けたのですが、留年してでも翌年のローマ・オリンピックを目指そうかと思い始め、「一年大学に残っていいだろうか」と病身の父に相談したら「皆さんの推めならやってみなさい。但し卒業後はまっすぐ気仙沼に帰って来る事」を条件に留年の了承を得ました。

努力が報われ、無事日本代表になりました。当時世界一流のエイト二千メートルの記録は6分でした。

千葉建郎さん

我々のチームは練習で何度も5分55秒あたりを出していました。実際その頃つくった我々の公式記録はその後21年間破られなかったのです。堀内監督設計のボート「図南(トナン)」を船便で送り出し、1960年8月我々は空路ローマに入りました。届いた図南を見て驚きました。長い船旅に図南の船底が乾燥で波打っているのです。予選はトップと約四艇身差の五艇中四位。大きなハンディキャップでのレースでした。さらに予選、敗復共にフランス語のスタートの合図にミスをし、予選はドイツに2艇身(約8秒)負け、翌日の敗復線ではスイス、オーストラリアを千メートルで抜き、ラスト500メートルはイタリアとデッドヒートの戦いをしたのですが、写真判定で40cmほど届かず、決勝進出を逃し、文字通り涙を飲みました。地元イタリアの熱狂的な声援で東北大コックスの号令もクルーには届かない程でした。

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